「はぁぁぁ……ほんとにすげぇ……ぜっ!?」
 唐突に男の頭蓋にくぐもった音とともに穴が開いた。
 ワンテンポ遅れてそこから血が噴出する。
 サングラスがゆらりとバランスを崩して、後ろに倒れていく。
 ペニスが軽い音をたてて抜ける。
 それは未練たらしく精液を出し続け、霧香の体を汚していく。
 しかし、すぐにそれは上から降り注ぐ鮮血によって覆い隠されてしまう。
 その間も、あたりには無数の銃声が響いていた。
 天井を見ると、いつの間にあったのか、天井から吊るされているロープに捕まった吉村の姿がある。
 一人ではない。
 無数の人間が吉村に続いて、天井に開けられた穴から侵入しつつ、眼下に向かって銃を乱射している。
 そのうちに倉庫のドアが打ち破られ、さらに兵士が突入してきた。
 倉庫にいた人間たちはなにが起きたかわからぬうちに、次々と倒れていく。

 数分後、倉庫を制圧し終えた吉村が、周囲を警戒し続ける部下から離れて霧香の元へやってきた。
「これは……」
 かつての面影のかけらもなく、ガラクタと化した部下を見下ろす。
 あまりにむごい有様に、吉村は言葉を失った。
 なまじ美しい顔が残っているだけに、よけい哀れさを増している。
 体の奥から溢れる怒りを抑えきれずに、吉村は手にしていたヘルメットを床にたたきつけた。
 そして大きく息を吐くと、できるかぎり冷静に、通信機に向かって霧香の確保を告げた。

「ぐっ……わ、わた、わたし……は」
 声帯が破損しているのだろう。
 かすれた声が自分の耳に飛び込んでくる。
 霧香はきしむ首を動かしてあたりを見回した。
 忙しそうに多くの人間が自分を取り巻いている。
 ふと視線を動かすと自分の体が目にはいった。
 ひどい姿である。
 ああ、そうだ私は、敵に捕らわれてばらばらに……。
 ノイズだらけの映像が脳裏に再生されて、霧香はすべてを思い出した。
「……なに!? 霧香が意識を取り戻したのか!」
 聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
 誰の声かまるでわからない。
 声紋データが照合され、それはすぐに吉村のものだと認識される。
 正常なら起こらないタイムラグによって、霧香は嫌でも自身の惨状を意識させられた。
「おい、大丈夫なのか竜宮軍曹!」
 心配そうな顔がレンズに映って、なぜか霧香は感情が揺らぐのを感じた。
「た、たい……ちょ……お……」
「意識はあるんだな! 生きているんだな!」
 自分を人間のように言う、その言葉がひどく嬉しい。
「ごめ、ごめい、ごめいわくを……おか、お、おかけ、しま……し、た」
 声帯だけでなく言語機能も損傷しているらしい。
 信頼する隊長への言葉が上手くでてこずに、霧香はひどくもどかしい思いをする。
「なにを言う。お前のおかげで隊員たちは全員無事だ。本当に……すまなかった」
 ぽとりと、霧香の頬にしずくが落ちた。
「……たいちょお?」
 歯を食いしばって、吉村は体の奥からくる想いを押さえ込む。
「なんでもない。それよりも、俺をまだ隊長と呼んでくれるのか」
「たい、ちょうぅうは、たい……ちょ、うです、……から」
「竜宮軍曹……」
「たいちょ、う」
「なんだ? どうした?」
「どううか……こ、こ、これい、じょう、……見ない、で……くださ、さ、さい……わた、わらしも、女です」
「す、すまんっ!」
 吉村が慌てて部下から目をそらす。
「すき、好きななぁ、人に人、こんんな姿を……見ら見られ、れるのは、つ、らいですか……ら――」
「な、なにい!?」
 慌てた吉村が聞き返すが、霧香はすでに意識を失っていた。
 目を閉じ、微動だにしない部下を見つめて、隊長はただ立ちつくす。
 モニターを見つめていた一人が大声をあげる。
「あーーーっ! 無理をさせるなといっただろう。 まだ起動しただけだというのに!!」
 棒立ちの吉村を押しのけて、技術者たちが霧香におしよせた。

 霧香の体は軍事機密の塊であるから、発信機など様々な監視装置がついている。
 当たり前だが、初のアンドロイドの運用状況をモニターするためである。
 霧香を強奪した連中もほとんどの発信機を発見、破壊したものの、たったひとつだけ見つからなかったものがあった。
 そのため霧香の居場所が確認でき、奪回部隊が無事に霧香を回収できたのだ。
 二週間後、霧香は無事修復され吉村隊に復帰した。
 修復作業中に回収されたデータから判明した、プログラムシャットダウン直前の霧香の吉村への言葉から、アンドロイドも恋をするのかという論争が勃発し、経過を見守りつつ、データを収集するべしという結論が下された。
 その結果、霧香の吉村隊への配属が半年間から無期限に延長されることとなる。

「隊長! またお世話になります!!」
 相変わらず葉巻をふかしている基地司令の前、霧香がきりりと引き締まった顔で敬礼する。
 吉村は嬉しいような、困ったような、判断のつきかねる心境でそれを受けた。


戻る

作品選択へ戻る