突然もじもじしだした明日香を、山田はいぶかしむ。
 しかし、男なら好きな女の子に上目づかいでお願いされて断ることなどできるわけがない。そして、当然山田も男だった。
「できることならなんでもするよ」
「私のファーストキスは山田のおちんちんでもなくて、歯ぶつけちゃったのでもなくて、抱きしめられてした今のキス!」
 恥ずかしさを隠すためか、目を閉じ、叫ぶように明日香が言った。
「ね! そういうことにして」
 今にも泣き出しそうなほど真剣な表情で顔を覗きこまれ、山田はうなずくことしかできない。
「う、うん。わ、わかった」
 輝くような明るい笑顔が明日香の顔に浮かぶ。
「よかったぁ……。山田のそういうとこ好き」
 山田は好きという単語に敏感に反応して、顔が熱くなるのがわかった。
「でも、なんでそんなこと」
「やっぱさぁ、ちょっとでもイイ感じにしたいでしょ。ファーストキスの思い出は」
 自分がそういうことにしても、実際は違うことを本人が覚えていては意味が無いのではないか。そう思ったが、明日香が満足しているようなので、山田はその言葉を飲みこんだ。
「そういうもんかなぁ」
「そういうもんなの……つーか、さっきから思ってたんだけど」
「うん」
「すっごく言いにくいんだけど」
「な、なに」
「この際だからはっきり言うね」
 ためらう明日香の様子に、山田に緊張が走る。
「キスの途中からなんだけど……ずっと山田のおちんちんが固くなってお尻に当たってんの」
 山田の全身が硬直した。関節から軋む音が聞こえてきそうなほどぎこちなく、のろのろとした動きで、明日香の背に回していた腕をほどく。
「ご、ご、ご」
 ごめんと言いたいのだが、喉は同じ音を繰り返すばかりでいっこうに先に進まない。
 顔は赤くなるどころか、反対に真っ青になってしまっている。
 取り返しのつかない失敗をしでかしてしまった。山田は心の中で自分の体を呪った。
「これってさ、キスで感じちゃったってことだよね」
 明日香の指摘に図星を指され、山田はさらに追いこまれた。
「じゃあじゃあ、これでも感じちゃうのかなー?」
 言うと明日香は丸く、柔らかいお尻をぐにぐにと山田に押し付けた。股間が上手い具合にお尻の谷間にはまって絶妙な刺激を山田に与える。
「よ、吉崎さん……!?」
 若さに溢れる弾力を味わいながらも、山田はどうして良いのかわからない。
「だめだって、こんなこと」
「なにが? 恋人同士のスキンシップでしょ」
「でも……」
「もしかしてエッチなこと考えてるぅ?」
「……」
 無理が通れば道理は引っ込む。弱々しい制止はあっさりと振り切られてしまった。
「違うんだったら別にいいでしょ」
「でも、やっぱり……」
 明日香がさらに激しい動きで腰を振り、山田に押し付けると山田はなにかに耐えるように黙り込んでしまった。

 山田の困った顔が見たくて始めた行動は望み通りの結果となったが、予想外のおまけもついてきた。
 お尻で山田のものをいたずらしていたのだが、座っている位置がじょじょにずれ、次第に明日香の股間にも微妙な刺激を与えることとなってしまったのだ。
 いつしか明日香のいたずらは数枚の布越しに、互いの性器を擦りつける淫らなものとなっていた。
「……ぁ」
 かすかな声が、明日香の唇から洩れる。その音は確かにピンクに染まっていた。
 明日香が慌てて口元を抑えたが既に遅い。
 普通なら聞こえないような小さな声も、密着した今の状態なら相手に届いてしまう。
「吉崎さん!」  今までとは明らかに違った調子の声に明日香が驚く前に、山田のひざの上に乗っていた明日香の体は跳ねあがり、ソファに押し付けられる。
 山田が立ち上がり、明日香と自分の位置を入れ替えたのだ。
 自分にのしかかるような格好でいる山田に手首を掴まれているため、明日香は動くことができない。
 おそるおそる視線を動かしても山田の胸元しか見えず、その表情を伺うことができない。
「や……山田? 怒った?」
「こんなことされて、我慢できるわけないじゃないか」
「ごめん。調子に乗りすぎた。謝るから」
「別に怒ってないよ」
「へ?」
 明日香は間抜けな声をだした。
 山田が掴んでいた明日香の手首を離す。
 許してもらえたのかと安心した直後、山田の手が胸元に伸びてくるのを明日香はただ見ていた。その指が豊かな二つのふくらみに触れ、わずかに沈むのを人事のように感じながら。
 山田の手が自分の胸を揉みしだいて、初めて明日香の意識ははっきりと事態を理解した。
「山田!? 急になにすんのよ? ねぇ、落ち着いてよ」
「あんなことしといていまさらそんなこと……!」
 明日香を見下ろす山田は瞳孔が開いていて、とても正気には思えない。
「なんか怖いって。ね? 怒らせちゃったのは謝るから、許して」
「ここまできたらもう遅いよ」
 普段の様子からは想像できないほど、山田は興奮しきっている。
 ひきつった顔で明日香が謝罪の言葉を口にしても、まったく届いていない。
「や……山田ぁ、こんなのやだよぉ」
 明日香の瞳に涙が浮かぶ。
「ごめんなさい、お願いだから優しくなって。余計なことしてごめんなさい。バカでごめんなさい。嫌って言ったらすぐ止めるから元に戻って」
 大きく盛り上がった涙は、限界を超え、ぽろぽろと大粒の雫となって零れ落ちた。
「吉崎さん?」
 呆けた声で山田が恋人の名を呼んだ。そうしてから確かめるように明日香の顔を見つめた。
 涙でマスカラが流れ落ちて目の回りが黒く汚れてしまっている。
 唇は小さく動いて、自分の名前を呟き続けている。
 怯え、かすかに震えている。
 普段の、明るく元気な姿が欠片も無くなってしまっている。
「吉崎さん?」
 もう一度、今度は先程よりしっかりした声で、恋人の名を呼ぶ。


進む
戻る

作品選択へ戻る