「それじゃあ喜多さん。どうなるか楽しみにしてるから」
 にっこりと微笑みかけると、喜多が不吉なものを感じたのか、ぎこちなく唇を動かし、なにか言おうとした。
 だが、残念ながら僕の指のほうが早かった。
 すばやくクリトリスを摘まむと、一気に包皮を剥く。
 そのまま、手加減せずに摘まんだ肉芽をねじり上げた。
 喜多の開かれた唇から言葉が出ることはなかった。代わりに――。
「ひぎっぃぃぃぃぃっ!」
 絶叫が飛び出した。
 思い切り背筋をのけぞらし、瞳を大きく開いている。
 これは背筋が伸びそうだ。
「ぃぃぃっ……! あっく、あ、あ、あ、あ、き、きり、のっ!」
 握り締めた僕の腕に力いっぱい爪を立て、ぱくぱくと動かす喜多。
 もはや声もでないらしい。切羽詰った息を吸う音だけがひゅうひゅうと聞こえてくる。
 もしかして……やりすぎたか!?
 僕が内心であせっていると、全身を痙攣させた後、人形のようにくたりと動かなくなった。
 だらしなく開かれた唇の端からはよだれがこぼれている。
「え? ちょっ、喜多さんっ!」
 尋常ではない様子にさすがにあせった僕は、慌てて喜多を抱き上げた。
 ……よかった。生きてる。本気でどうかなったと思った。
 ときおり切なげな声を漏らすものの、全体として彼女は無事だった。
 僕はぐったりしたままの喜多の金髪を撫でた。やっぱりちょっと痛んでるな。
 あとでトリートメントしてやろう。
「ん……きり、の」
 寝言で自分の名前を呼ばれるのは、存外いい気持ちになるものだと僕は知った。  ふと、窓の外を見ると、もうだいぶ暗い。時計は八時過ぎを指していた。
 少し前ならまだ明るい時間だったのに。
 思わず、夏が終わっていくのを実感してしまう。
 喜多を見ると、まだ時々びくりと背をのけぞらせている。僕の繊細かつ、メランコリックな気持ちには全然気づいてないようだ。
「起きなさい。起きなさい、僕のかわいい薫や……」
 僕が軽く体をゆすると、うっすらと目をあけた。
 が、すぐにまた閉じてしまう。
 しかたない。もうちょっと待ってみるか。
 僕は暇つぶしのために喜多の胸に手を伸ばした。
 あいかわらず小さい胸は、彼女が寝返りをうとうが、悲しいかなほとんど形を変えない。谷間とは今までも、そして、これからも縁がなさそうである。
 それでも突つくと柔らかいのだから、これが女体の神秘というやつなのだろう。
 胸が膨らみ始める境の辺りの張りのある感触を愉しんでいると、体に触れられているのを感じたのだろうか。喜多がぱちりと目を開けた。
 油断しきっていた僕は、彼女と目があってしまった。そらすこともできない。
 数秒の間、じっと見つめあう。
 終わりは始まりと同じように唐突だった。
「やばいっ!」
 跳ね起きると、彼女はどたばたと本棚に向かった。
 なにもない空間でドアノブをひねる仕草をすると、そのまま本棚に突撃する。
「ぁたっ!」
 彼女の背中を、僕は唖然として見ていた。
 それ以外に常人である僕になにができるだろうか。
 全裸の彼女が奇妙なパントマイムを繰り広げるのを生暖かく見守ってあげる以外のなにが。
 顔を抑えてきょろきょろしている喜多に、僕は声をかけた。
「喜多さん?」
「うわっ!」
 声をあげて、振り向く彼女。
「えっ!? 桐野!? あっ!」
 どうやら寝ぼけていたらしい彼女は、正気づくと、顔を真っ赤にしてわめき散らした。
「こ、これは違うからな! 笑うなボケっ!」
 無理だ。
 僕は腹筋が引きつりそうになった。
 ひぃひぃとかすれた声がもれる。
「桐野っ! 笑うなっつってんだろが!」
「ぐっ、ぷっ、む、無理だ」
 それだけを言うと、僕は腹を抱えてのたうちまわりながら爆笑した。
「こっ、この野郎っ!」
 その後、僕の口をふさごうとする喜多と、笑い続ける僕の壮絶なグラウンドでの攻防がしばらく続き、決着までに十分程度をようした。
 桐野対喜多戦、試合結果。
 全裸に気づいた喜多が戦意喪失、タオルケットに包まり、試合を放棄したため、桐野の勝ち。第一ラウンド九分二十五秒。
 あぐらをかきながら、喜多がぶつぶつと文句を言っている。
「しかたないだろ。自分の家と間違えたんだから」
 ドアノブがないので気づくだろ。とは言わず、僕は別のことを口にした。大人の対応というヤツだ。
「わかった。もう言わないし、笑わないから早く話してくれよ」
「なにを」
 この期に及んでしらばっくれようとするとはいい度胸をしている。
 僕はわきわきと指を動かしながら喜多の胸元へ近づけた。
 身の危険を感じたのか、彼女が胸元を手で隠す。
「おっ、おい。なにをする気だ」
「質問はすでに拷問に変わっているんだぜ。まだ答えない気なら、気を失っても攻め続けてやる」
「責め、責めるってなにする気だっ」
「もちろん胸をめちゃめちゃに」
「っ……このボケっ! なんかあるとすぐに胸責めて言うこときかせようとしやがって!  そっ、そういえばあたしが寝てる間にもなんかしただろ!? なんとなく触られてた気がするし。そんなあたしの胸弄るのが楽しいのか!」
 桐野戦法ナンバーワン、口げんかでは言いよどむな。こういう口先での戦いは怯んだほうが負けだ。きっぱりと言い切ってやらねば。
「楽しい。喜多さんのおっぱいなら一生触ってても飽きない自信がある」
「いっ、一生!? う、嘘つくなボケっ! 一生なんか飽きないわけないだろうがっ。でたらめ言うな!」
 なぜか急に挙動不審になってうろたえだす喜多。変なところに食いつくな。
 まあいいか。
 桐野戦法ナンバーツー、相手がヒートアップしたら力を抜け。適当に合わせてやろう。
「いやいや。僕の喜多さんの胸への探究心と開発心は海よりも深く、山よりも高いから」
「一生だぞ!」
 喜多が顔を真っ赤にして叫ぶように言った。
 どうしたんだろう。まださっきの興奮が残っているのかもしれない。
「一生飽きないね」
「言ったからな! ほんとに一生だな」
 本当に妙な部分にこだわるな。
「しつこいな。一生飽きないよ。」
 同じようなやり取りを何度か繰り返すと、さすがの喜多も飽きたのだろう。
 ピンクに染まった頬のまま、ぐっと黙り込んでしまった。
 やけに熱い視線を浴びせられていると感じるのは僕の気のせいだろうか。
 喜多が一瞬うつむいたかと思うと、勢いよく顔を上げた。
 そして、かすれるような声で呟く。
「……一生だからな」


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