「いやいや、さすがに僕のせいってことはないだろ」
「ぶっコロスぞ! あ、あんなキスしといてほったらかしにするからだろうが! そのせいで――」
「そのせいでなに?」
「……っ! わかってるくせに聞くなボケ!」
 喜多に問い返すと、小さな声で吐き捨てるようにそう言い、下を向いてしまった。
 僕はソファに腰を下ろし、彼女を抱きしめた。
「はなせよ」
「ダメだ。今度は僕の番だから」
「なにが」
 イラついたように僕から逃れようとするのを拒み、無理やりソファに押し倒した。
「おっ、おい!」
「喜多さんが僕の匂いを嗅いでたんだから、今度は僕の番だろ」
「えっ、ちょっと待てっ、あっ!」
 僕は彼女の胸元に顔をうずめた。
 思い切り息を吸い込むと甘い匂いがする。
 わざと鼻を鳴らし、喜多に自分の匂いを嗅がれていることを意識させる。
「あ……っ、いやだ、やめろ、変態」
「自分だって僕制服の匂い嗅いでたくせに。どっちかって言うとまだ僕のほうがましなんじゃないか。僕は喜多さんの匂いで、喜多さんは僕の残り香だぞ。蒲団じゃあるまいし、そっちのほうが変態だと思うけど」
「ち、違う。あたしのは、その、あれだ」
「違わない。喜多さんは変態なんだよ。それも凄く」
 僕が耳元でささやいてやると、それを合図にしたように喜多は抵抗をやめされるがままになってしまった。
 彼女の体から力が抜けていくのとは逆に、なんだか肌が熱くなっているような気がする。
 ちらりと上目遣いで喜多の様子を窺うと、頬が火照っているのがわかった。
 やっぱりそっちのほうが変態じゃないか、僕はそう思った。
 変態って言われて興奮するのが変態じゃなくて他のなんだというのだ。きっと広辞苑にもそう載っている。
 僕はにやりと笑い、彼女の首筋に顔を動かした。鼻の頭をこすり付けるようにして、首から鎖骨に動かしていく。
「喜多さんはいい匂いがする。変態のくせに」
「あっ、あたしは変態じゃ……」
「この前認めただろ」
 黙りこんでしまった喜多の鎖骨をちろりと舐めた。
「ひぅ……」
「大丈夫。僕は喜多さんが変態でも好きだってこの前も言っただろ」
「あ……あたしは、変態……です」
 喜多が切れ切れに呟き終える。その途端、彼女の体の匂いの質が変わった。なんだか妙に興奮させる匂いだ。雌の匂いというやつだろうか。
 その香りを楽しみながら、僕は彼女の腕を持ち上げ脇に顔を突っ込もうとした。
「そんなとこっ……!」
 僕は弱々しく抵抗しようとする喜多の瞳を見据えると、静かに喜多さんと名前を呼んだ。
「き、りの」
 彼女が僕の名前をかすれた声で呟くと、自ら自分の腕をあげた。
「よくできました」
「どうせ……あたしはオマエの奴隷なんだ」
 ふてくされた様な言い方だったが、その奥に潜むわずかな喜びを、僕は見逃さなかった。
 しかしそれは口にしない。
「やっとしつけの効果がでてきた」
 シャツ越しに喜多の脇に顔を押し付ける。少しばかり汗のにおいがしたが、不快なものではない。それどころか、喜多の匂いだと思うと妙に興奮してしまう。
「喜多さんのわきの匂いがする」
 感想を言われると思ってはいなかったのだろう。さすがに恥ずかしそうにしている。だが、眉を寄せて必死で耐えている姿が、僕にもっと言ってくれと要求しているように見える。
 今度眼科に行ったほうがいいのだろうか、それとも精神科か。いや、健全な男子高校生なら普通の欲求のはずだ。そういうことにしておこう。
「汗と喜多さんの匂いが混じっていやらしい香りになってる」
「そんなことっ……言うなボ、ケ」
 眉を寄せ、切なげな息を漏らしながら言われてもやめる気にはならない。
 布地越しに舌を這わせる。じっとりとシャツのわきの色が変わっていく。
「喜多さんのわきおいしい」
「ん……」
 喜多は目をかたく閉じてしまって、こちらの言葉に答えるそぶりは見せない。
 僕はさらに彼女を辱めようと、わきにかぶりついた。
「ひっ!」
 思わず情けない声が喜多から飛び出した。のけぞって僕から離れていく体をぐっと押さえつけてやる。
 唇で揉むようにしてわきにしゃぶりつく。時折舌を伸ばしてやると、シャツ越しにもかかわらず、そのたびに体に緊張が走った。
 しばらくして今度はうなじの匂いを嗅ぐ。
 僕が鼻を動かすたびに喜多は首をすくめて小さくなるのがおもしろい。
「ああ、喜多さんはどこからでもいい匂いがする」
「……黙れ」
 恥ずかしさのあまり、喜多の目じりに小さな玉のような涙が浮かんでいる。
 いたずら心を起こして耳の裏をぺろりと舐めてやった。
「っあ……き、桐野、あたしもう……」
 喜多が身をよじって僕にすがりつくように訴えてきた。
 そのまま抱きしめてしまいそうになるのをこらえて押しのける。
「まだ僕の番は終わってないよ。肝心の場所がまだだ」
 彼女のひざに手を置くと、がばりと広げる。
「桐野っ!」
 僕の意図を理解した喜多が拒もうとするが許さない。
「喜多さん。僕がご主人様で喜多さんは?」
 もう何度言ったかわからないフレーズを口にすると、喜多の頬が紅潮した。怒りだろうか、それとも悦びだろうか。
 僕は喜多の足の間、フローリングの床に直接ひざをついた。
「楽しみだなあ。もう喜多さんの匂いがしてる」
 本当はまるでそんな匂いは感じていないのだが、彼女を辱しめるためだ。
 案の定食いついてきた。
「そんなわけあるかっ! そんな距離で匂いがわかるわけねぇだろっ!」
「いやいや、喜多さんの匂いはキツイからわかるよ」
 僕は鼻をひくひく動かしてやる。本当は別に匂いなどしない。
 ウソはいけないことだと教わったが、人のためになるウソならかまわないという説もある。この場合は喜多を喜ばせることに繋がっているのだから、人のためになるとみなしていいだろう。
「ここからもうエロい匂いがぷんぷんするし」
「しねぇっ! そんな匂いぜってぇしねぇっ!」
 悲鳴まじりで否定する喜多をさらに追い詰める。ぐっと身を乗り出し、彼女の股間に顔を近づける。
「だってほら、ジャージ越しでもわかるもん。喜多さんのあそこの匂い」


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