「大丈夫?」
 もはや瞳すら僕のほうをちらりとも見ない。薄く開かれた目はただ、ぼんやりとソファを眺めている。
僕は喜多のおでこに手を伸ばし、浮かんでいる汗をぬぐってやった。熱い。
 なんとなく、そのままその指をくわえた。
 別に汚いとは思わなかった。ただ、どんな味だろうと思ったのだ。
「や……やめろって……言った、のに。あとで、コロ……ス」
 ソファに頬をうずめている喜多から声が聞こえてきた。
 喋るのも辛いだろうに負けん気だけは一人前だ。
 まあ、喜多の殺すは愛しているに翻訳可能だからかまわないだろう。訳者は戸田奈津子。
 ということは間違いかもだぜ?
 ともかく。
 彼女にはまだ終わりじゃないことを伝えないと。
「それだけ言えるんだったらまだ頑張れるな」
「な、にが?」
 ひゅうひゅうと酸素を取り込みながら、喜多は必死で息を整えようとしている。
「僕の番。まだ僕イッてないだろ」
 ひゅっ! 喜多は息を吸うと、それを吐き出さず絶句した。
 きっと僕はいまの彼女の顔を一生忘れないだろう。額縁に入れて飾りたいほどの表情だ。絶句について論文を書くときには、いまの顔を写真にとって引用すればノーベル賞間違いなしだ。
 僕を見上げる瞳が大きく開かれる。
「や……すま、せ――」
 なにか言いかけた薫の足を掴み、ソファから引き摺り下ろす。床にひざをつかせると、ソファに縋るようにしてお尻をこちらに向ける体勢になった。
 こちらから見ると大事な部分が丸見えだ。目のやり場に困る。いや、まるで困らないな。
 薫の潤みきったあそこは幾度かの絶頂によって充血しているのか、薄桃色にうっすらと赤みがさしていた。
 膝をついたせいで太ももはおろか、膝の辺りまで愛液が垂れ落ち光るすじをつくっている。
 桃のような、と言うには少々ボリュームの足りない薫のお尻を撫でる。それでも十分に柔らかくむちむちと張りがあって、触り心地は最高だ。
 僕はおもむろに手を振り上げた。薫からは見えない。掌が空をきる。
「いっ……!」
 小気味よい音がした。
「あぁ……」
 痛みに耐えているのではない、うっとりした声がかすかに聞こえた。
「お尻叩かれて気持ちよかったのか」
「ち、が……」
 反射的に否定しようとする彼女のお尻にもう一発加える。
「いぎっ! き、きもひ……よかっら、れす」
「よし。ご褒美をあげよう」
 さらに尻たぶを叩く。くぐもってはいるものの、理性の蕩けた甘い声を薫が漏らした。
 どうなってもお尻を叩くことに変わりはないのだ。しかし、僕の目には叩かれた瞬間、薫のあそこから愛液がぴゅくっと跳ねたのが映っている。
 焦らすように、触れるか触れないかの距離で太ももをさする。膝のほうから、足の付け根まで。
 秘部に近づくたび、切なげな吐息が薫から漏れた。僕の指に、上から垂れてきた液体が絡みついていく。
 とろっとろになっているあそこに強く息を吹きかけた。
「んんっ! ゆ、るし……て」
 薫が腰を跳ね上げる。
「許してって、僕がまるでいじめてるみたいじゃないか」
 下から掬い上げるように薫のお尻を叩く。
「ひっ、ぁあ」
 唇の端からよだれをこぼしながよがる薫。
 僕はソファに手を突きながら彼女にのしかかった。
 耳に舌を這わせると、半開きになった口から震える舌が空に突き出される。
 半分意識が飛んでいるのかもしれない。
 それでも、一応教えてあげることにした。僕はなんて親切なんだろう。
「薫。いまから挿れるから」
 言いながら、薫の口中に指を突っ込み、かき回す。本能だろうか、舌を絡めてくるのに驚いてしまう。
「はひ」
 息も絶え絶えながら、彼女が返事をする。短い言葉だったが、そのせいで舌が動き、僕の指に快感を伝えた。
 まるで薫の快感が伝わってきたように僕まで興奮してしまう。
 ぐったりとしている彼女の細い腰をひどく愛しく感じる。こんなに華奢な身体なのに、普段の強さがどこに潜んでいるのだろうか。不思議でたまらない。
 下着は右太ももの付け根で細くねじれていて、まるで役目を果たしていない。今更脱がす必要もないし、そんな余裕もない。
 僕は上体を起こすと、硬く勃ち過ぎてなかなかいうことをきかない自分のものに手を添え、薫の中を目指した。
 先端が薫に触れると、新たにあふれ出た愛液が僕のものをぬらした。
 充分以上に濡れているはずなのに、薫の中は相変わらずきつい。もう何度目にもなるが、初めてのときとまったく変わらない。
 しめつけを楽しみながら柔らかい肉をかきわけ、ペニスを沈めていく。
 僕が奥を目指しているあいだ、薫はソファに指を立てて押し寄せる快楽に耐えようとしていた。しかし、力が入らないらしく、指はソファの表面をむなしく滑っている。
「ぉあ……」
 首をのけぞらして薫が息を吐き出す。目じりには涙が玉となって浮かんでいる。
 僕の腰と薫のお尻がぴったりと隙間なくくっついた。
「全部入ってるのわかる?」
「ん、ぃっ……くぅ……!」
 首筋に指を走らせると、それがきっかけになったのか、薫の中がきゅっと締まった。軽くイッてしまったらしい。
 淫肉が僕のものを放すまいとうごめきながら強く絡み付いてくる。
 それだけで達してしまいそうになったが、ここでイクのはご主人様の権威に関わる。僕は必死で背筋を昇る快感に耐えた。
 入るときとは逆に、今度は抜かれまいとする薫の秘所に逆らいながら、腰を引いていく。
 数回同じ動きを繰り返すと、ようやくまともに腰を動かせるようになってきた。
 ぐちょぐちょのあそこをかき回すたびに、か細い悲鳴のようなあえぎ声が、薫の噛み締められた唇からこぼれる。
「ひっ……ぃう、ぅ……きりろぉっ!」
 僕の名前を呼ぶ彼女に応えるように激しく腰を打ちつける。
 薫の胸元に手を伸ばし、控えめなふくらみを愛撫する。ときどき、勢い余って爪で引っかいてしまうと、彼女はすすり泣きながら僕の名前を呼んだ。
 それを見た僕は尖りきった乳首に爪を立てた。
 すると、上にいる僕を跳ね飛ばさんばかりに背を弓なりに反らして薫が絶叫する。
 同時に、彼女が嬉しいお返しをくれた。膣内が激しく蠕動して強烈に締め上げてくる。入り口から子宮に向かって、亀頭から根元に向かって。次々と僕のものに蕩けるような刺激を与えてくれる。
 脳髄までしびれさせるような快感に、思わずうめき声を漏らしてしまった。
 けれど、そんな僕の感覚にはお構いなしに腰は勝手に動く。
 彼女を突くたびに、新しい快楽が得られた。
 だが薫の様子がどこかおかしい。夢中になっていて気づくのが遅れてしまった。
「くぅっ! 桐野ぉ、ひぐぅ、あっ! い、やだっ、おねがひ……ひりのぉっ、こわいよぉ」
 飛び飛びの言葉をなんとか聞き取ると、必死でなにかを訴えているらしい。
「どうした?」
「こんらのっ……ひやらっ! いっ、くぅ……あっ」
 嫌? そう言っているみたいだが、なにが嫌なのだろう。まるでわからない。
 僕は思い切り腰を打ち付けると、薫の一番奥深くまでペニスを突っ込んだ。
「ひぎぃっ! あっ、くぁ、おぁぁぁっ!」
 口をぱくぱくさせながら、薫がむせび泣く。
 一瞬大きく開かれた瞳が、すぐさま閉じられた。がくりと首がおれる。
 薫、と名前を呼んでも反応がない。軽く頬に手を添え、名前を繰り返す。
 三回目に、薄く目が開いた。わずかの間だが、意識を失っていたらしい。
 ピストンを再開したくなるのをこらえつつ、僕は尋ねた。
「なにが嫌なんだ?」
「ぁ……?」
 どうも頭がまだぼんやりしているらしく、要領を得ない。
「なにか嫌なんだろ?」
「……ぁ! き、りろの、桐野の顔が見えない」
「僕の?」
 のろのろと薫がうなずく。

進む
戻る

作品選択へ戻る