「くっ、くく……いや、ごめん。じゃあ天気の話はやめよう」
「わかればいいんだよ。わかれば」
 ようやく話題が変わるらしい。
 と、俺がほっとしたのもつかの間。
「でもさ、なんていうか……喜多さんって見た目より可愛いよな」
「可愛い? あたしが?」
「うん」
「ふざけたこと言ってんじゃねえぞ!」
 それは俺のセリフだ!
 桐野の野郎、ぬけぬけと。
 惚気ってものが自分はともかく、他人のを聞かされるとこんなにも腹が立つものだとは。
 やべぇ、怒りでスーパーサイヤ人になれそう。
「いや、本心からなんだけど」
 まだ言うか! 桐野の野郎!
 かばんをあのバカの顔面めがけて放り投げてやりたい。
 しかし、そんなことをすれば、桐野にべた惚れらしい喜多の報復が怖いし。
 俺はこぶしを力いっぱい握るだけにとどめておいた。
 決して喜多が怖いわけではない。俺は女性には優しいのだ。
「これ以上言ったらぶっ殺すぞ!」
 喜多が桐野に怒鳴っているが、まるで嬉しさを隠しきれていない。
 きっと綺麗とか、そういう褒め言葉に免疫がないんだろう。
 まあ、喜多に面と向かってそんなことを言える度胸のあるやつなんていないだろうからな。
 ……待てよ。
 すると、桐野の野郎は今みたいに寝言まみれのセリフで喜多を攻めまくっておとしたのだろうか。
 ありえるな。
 褒め言葉に弱い女の子はいっぱいいるしな。
 しかし、まさか喜多がそんなタイプとは思わなかった。
「喜多さんと話せることがどんどん減ってくなあ」
「そんなくだらねぇことだったら減っていいんだよ」
 幸せそうにじゃれている二人を見ていると腹が立ってきた。
 こっちは最近ぜんぜんついていないというのに。
 この前も五股がばれてふられたばっかりだし。
 バイクに乗って鋲のついた服着た悪党達がヒャハハって笑いながらあの二人を邪魔しにこねえかな。モヒカンならなお可。
「おいコラ! 待てや喜多! この前はよくもやってくれたな。おお!? 油断さえしなきゃ、俺がてめえみたいな女にやられるわけねんだよ。ぼこにしてやる!」
 げぇ! ヤンキー!
 ジャーン! ジャーン! ジャーン!
 俺の脳裏に銅鑼の音が響いた。
 天が俺の願いをかなえたのか。
 レスポンスが早かった分、モヒカンでも、バイクに乗ってもいないがまあいい。
 しかし、本当にかなうとは思わなかった。
 天も俺には常に注目しているらしい。
 こうまで恵まれていると、うかつなことを思うことすらできないな。
 とりあえず、野次馬になるとするか。
「あぁん! お前見たいなバカの相手してる暇はねぇんだよボケっ! また玉潰すぞ!」
 喜多が鬼のような形相でヤンキーを睨んだ。
 子供が見たらおしっこ漏らすぞ。
 よく男の前であんな顔ができるな。
 桐野がひくぞ。
 ……いや、別にひいてないな。
 そういえば、あいつは昔からそういうやつだった。
 物事に動じないというか、鈍いというか。
 ヤンキーは動じないどころではない。怒りにぷるぷる震えている。
 どうやら喜多の言葉は図星らしい。
 むかし喜多に玉潰されたことがあるのか。哀れなやつだ。
「殺す!」
 喜多が桐野の手を振り払って迎撃体制をとる。
 まあ、いざとなったら助けに入ってやろう。
 おっ、喜多が言葉通りに男のタマ狙った。
 えげつねー。
 女だからできんだろーな。ああいうことは。
 おっ、ヤンキーもなかなかやるぞ。ちゃんとガードしてる。
「せっかく再起不能にしてやろうと思ったのによ」
 ぶっそうなことを喜多が口走る。
 なにからなにまで恐ろしい女だ。
「てめえのことだからどうせここを狙ってくると思ってたぜクソアマ。ここさえやられなきゃ女のてめえが勝てるわけねえもんなあ」
 その考えは甘いんじゃねぇのかな。
 横から見てるだけだけど、明らかに喜多とヤンキーでは格が違う。
 野次馬らしく冷静に批評していると、喜多が脚を掴まれてしまった。
 あ、やばい。
 うわっ、殴られた。
 あ、凄い。ぜんぜん弱気になってない。
 それどころか闘志満々だ。
 苗字花山のほうがいいんじゃねぇか?

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