「っつ……!」
 あ、またやられた。
 そろそろ助けに行ったほうがいいかな。しかし俺が行くのもへんだよな。彼氏がすぐそこにいるし、と俺は桐野を見た。
 すると、喜多のほうに向かって駆け出している。
 さすが、彼氏。
 彼女は自分で助けに行かないとな。
 やられたら俺が屍を拾ってやるから頑張れよ。
「痛かったら痛いって言えよ。俺の気持ちがすっきりするからな。泣きたくなったら泣いていいぜ。許さねえけどな。ひひひ。あれ、お前の男か? お前をぼこぼこにしたら次はあいつもついでに殺ってやる。」
 うわー、むかつくヤツ。
 きっと俺みたいな人生をおくってないからあんな風になんだろうな。
「テメエ……! 死ね! このボケっ!」
 なんであんなに強気でいられるのかと思ってると、喜多はむちゃくちゃな姿勢で反撃をヤンキーに食らわせた。
 ズ・ツ・キ……見事な……。
「ぐぇっ、がこ」
 あ、手離れた。
「根性だせやコラァ! 痛かったら痛いって言え! 言っても許さねぇぞボケっ! 桐野は関係ねぇだろがぁ! 桐野はぁ! おーっ!?」
 自由の身になった喜多の動きはすさまじかった。
 喜多と書いてキリングマシーンと読んでもいいだろうほど、殴る蹴る。
 哀れなヤンキーは一気に形勢逆転され、ボコボコにされている。
 桐野はというと、喜多を眺めるばかりだ。
 そりゃそーだ。
 せっかく白馬の騎士が駆けつけようとしたら、お姫様が魔王をたこ殴りにしてんだもんな。
「勘違いすんなよ。あたしがてめえのフニャチン狙うのは、お前みたいな馬鹿の相手に時間かけたくないからだ……よっ!」
「へぎょっ!」
 喜多の玉蹴りが当たり、ヤンキーが悶絶している。
 見ているだけでこっちまで痛くなってきそうだ。
 周りで見ていた数人の男が股間を抑えるのが見える。
 ヤンキーが気を失って地面に倒れこんだ。
 どうやら勝負はついたようだ。
 さて、平和な登校に戻るか。
 ……戻らないの!?
 俺だけじゃない、ギャラリーは全員朝のショータイムが終わったと思ったはずだ。
 なのに喜多は倒れこんでいる男を蹴りまくっている。
「気絶したフリなんかで騙せると思ってんのかぁ!? この腐れヘニャチンが!」
 うおー、マジこえー。なんて恐ろしい女だ。
 桐野のやつはよくあんな恐ろしい女と付き合えるな。
 前からうすうす感じてたが、あいつもやっぱどっか線切れてるな。
「なにあたしの顔殴ってくれてんだよっ。痣ができたら桐野に見せらんねぇだろ!」
 顔を気にするあたり可愛い……わけねー!
 こえーんだよ喜多!
 もう蹴られてもうめきすらしないのに、まだ蹴るか。
 あの姿を見てると、サンドバックのほうがましなんじゃねぇの、と思えてくる。
「このぼけっ。あたしの幸せな時間を何度も邪魔しやがって。なんか恨みでもあんのか!ちくしょうっ! やっと、やっと手、手を繋げたのにっ!」
 なにーっ!
 手を離させられたからアイツはあんなにボコボコにされてるのかよ!
 なんて恐ろしい女なんだ。
 まわりの野次馬は完璧に引きまくっている。
 ゴリッ。アスファルトと頭がこすれる嫌な音が聞こえた。
 喜多が男の頭を踏みつけたのだ。
 あの女は悪魔だ。それか現人鬼に違いない。
 それがトドメだったのか、喜多が桐野のほうに戻っていく。
 あたりを囲んでいた、ギャラリーの円が大きく歪んだ。
 もちろん喜多を避けるためだ。
 何人かは恐怖に足がすくんで動けなくなっている。
 可愛そうに目に涙を浮かべている女の子もいる。
 制服を見るとウチの学校だ。あとで慰めてあげよう。
「……前も言ったかもしれないけど、いつもこんなことしてるわけじゃないからな」
 喜多がこの惨状をごまかすように言った。
 誰がそんな言葉を信じるんだろう。
 今の言葉を信じるぐらいなら、マイクロソフトの製品に不具合はありません、という言葉を信じるほうがましだ。
 喜多はまだ桐野となにかしゃべっているが、離れているせいで聞こえなくなってしまった。
 しばらく見ていると、まるで今の地獄絵図がなかったかのように、二人でイチャつき始めた。
 あの切り替えの速さはなんだ。
 こえー。マジこえー。
 俺は再び手をつないで歩き始めた二人の背中を見て思った。
 ヤンキー系の女の子と付き合うときは覚悟完了してからにしようと。
 とりあえず、落とし方は教えてもらうけど。

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