「僕の思い当たることはひとつかな」
「なんだよ……?」
 震える声をだしながら喜多は僕を見上げた。
「喜多さんは好きな男にいじめられて喜ぶマゾなんだよ」
 喜多の潤んでいた瞳が大きく見開かれ、涙がポロリとこぼれる。
「え?」
「いじめられるのが嬉しいんだ。喜多さんは」
「そんなわけねぇだろ」
 威勢のいい言葉の内容とは裏腹に、弱々しい声だった。
 もう一押しか?
「じゃあ、どうしてお尻叩かれたのに、あそこを濡らしたの?」
「……」
 いつもの鋭い瞳は無く、ふらふらと頼りなく喜多の視線がさまよった。
「いじめられるのが嬉しいんだよ。こんな風にっ!」
 僕は止めとばかりに、喜多のお尻をひっぱたいた。
「ぁぁあ」
 尻たぶがふるふると小さくゆれた。
 しかし今までと違い、喜多から悲鳴が上がることは無い。
 喜多の顔が惚けたように緩んでいる。
 いつものきつい表情もいいが、この顔もなかなかいい。
 おそらく僕しか見たことがないだろうから。
「ちょっと気持ちよかったんじゃない? 今の声、なんか嫌がってるような感じじゃなかったよね」
 僕は優しく語りかけながら、すべすべとした丸いお尻を撫でた。
 叩きすぎたせいだろうか、少し熱い気がする。
 再び、喜多のあそこに指を伸ばす。
 そこは先ほどよりも濡れていた。
 薄い布地越しに、指を動かす。
「っ……ぁぁ。くぅぅっ、さ、触るな」
「止めていいの? こんなに気持ちよさそうなのに?」
 僕の指が動くたびに、喜多の意思とは関係なく喜多の体の奥からどんどん熱い蜜が溢れてくる。
「そっ……それでも……」
「ああ、そう」
 僕は冷たく言うと、ぴたりと動きを止めた。指は喜多に触れたままで。
 僕が簡単に言うことを聞いたのは予想外だったのか、喜多はしばし呆然としていた。
 が、すぐにもじもじと内股をこすり合わせ始めた。
 当然だが、僕はそれには気づかないふりをする。
「どっ、どうして急にやめたんだ」
「だってかわいい女の子にやめてくれって言われたから」
「……かわいい……」
 ぽそりと呟くと、喜多は少し嬉しそうな顔をした。
 この期に及んで、まだ僕の言葉が嬉しいらしい。
 もうとっくに好意なんてものはどっかにすっ飛んでしまっていると思っていたが、女というものはわからない。
 喜多がぶんぶんと頭を振った。
「そんな言葉でごまかされてたまるかっ!」
「いや、僕の正直な気持ちだよ」
「だったらいいんだ。さっさとあたしを放せよ」
 ほっとしたように喜多が僕に言った。
 その言葉に安堵だけではなく、残念そうな響きがあったのは僕の願望だろうか。いや、そうではないはずだ。
「それはできない」
「てめぇ・・・」
「だって僕は正直な気持ちだったけど、喜多さんは正直になってないじゃないか」
「あぁ?」
 喜多がいぶかしげに眉を寄せる。
 このきれいな、気の強そうな顔を困らせてやりたいと思うのは、決して僕が変態だからではなく、思春期にありがちな青少年の複雑なリビドーからだ。……と思う。
「ほんとにやめて欲しいの?」
「あたりまえだっ、このボケっ!」
「やめて欲しいんだったら、こんな風にもじもじしないよね」
 もぞもぞと動いている喜多の下半身をさする。
 それだけで喜多は目をつむり、声をあげた。
「ひぁっ」
「ほら」
「い……今のは違うっ!」
「ウソはよくないと思うよ」
 喜多は僕の口調からなにか感じ取ったのだろう。身を硬くして罰を待った。
 期待には応えなければならない。
 僕は勢いよく喜多のお尻をひっぱたいた。赤くなっている部分を狙ったからさぞ痛いだろう。
「くぁぁぁっ!」
「今、ちょっと叩かれるの期待したでしょ」
「するかっ」
「またウソついた」
 その言葉に敏感に反応した喜多が再び体を強張らせた。
 だが、今度はなにもしない。
「……え?」
 拍子抜けした声が喜多の唇から漏れる。
「叩かれるの喜ぶ相手を叩いてもおしおきにならないから」
「わけわかんねぇこといってんじゃ……」
 僕は怒りでこみ上げる感情をごまかそうとしている喜多の言葉をさえぎった。
「今、期待してなかったって言える?」
「してるわけ……」
「本当に?」
「……」
「叩かれて気持ちよくなかった?」
「……」
「よくないって言い切れる?」
「……」
 この状況で、矢継ぎ早に降ってくる質問に答えられるわけがない。
 喜多は混乱しきってまともじゃいられないだろう。
 ここで僕が決め付けてしまえば、それが救いの手になり、喜多の答えになる。
「よくないわけないよね。ほら、こんなに濡れてるんだし」
 僕は喜多の秘部を触り、濡れた指先をその眼前に突きつけてやった。
「なかなか強情だな。さすが。……よし。じゃあこう考えよう。今気持ちいいのは仕方ないんだ」
「なん……だって?」
 うつろな瞳で喜多が反応を示す。
「こんな風に縛られてたら、いくらなんでも僕に逆らえない。だから仕方なしに僕の言うことが当たってるふりして、感じてるふりしてるんだよ。ね、喜多さん?」
「ふ、り?」
「そう、ふり。だから叩かれて気持ちよくなっても仕方ないんだよ」
「ほんとに?」
「本当だって。だから好きな男にいいようにされて、いじめられて気持ちよくなってるのは全部喜多さんの演技なんだ」
「演技」
「だから……」
 ぱぁん!
 喜多のお尻を叩いて、もう聞きなれたといっていい音を鳴らす。
「ひっ!」
「こんなことされて気持ちいいのも仕方ないことなんだ」
「……」
「好きな男が、僕が喜ぶから、わざと喜んでくれてるんだよね?」
「……」
「喜多さんは僕の奴隷だよね?」
「……」
「ね?」
「……ああ」
 どこか安堵したような声。聞き逃してしまいそうなかすかな声を僕は聞き逃さなかった。
 僕は心の中で歓喜の声をあげ、今すぐ走り出したいのを必死でこらえる。
 ここが肝心の場所だ。
「返事はああじゃないだろ?」
「……はい」
 今度ははっきりと、承諾の言葉を喜多は口にした。
 僕の胸の中に、これまで感じたことのない達成感と、それをはるかに上回る征服感が湧きあがる。
 これはたまらない……!
「よし。じゃあご褒美だ」
 僕はにっこり笑うと、ひざの上の喜多を抱き起こした。
 そして、ゆっくりと喜多の顔に自分の顔を近づけていく。
「好きだよ。喜多さん」
 耳元で優しくささやくと、喜多の体がぶるりと震えた。
「ほんとに?」
 おびえたように、困惑した声で喜多が問いかけてきた。
 僕は返事の変わりに喜多の唇を自分のそれでふさぐ。
「ぅん……」
 僕らの唇の隙間から喜多が甘い吐息を漏らした。
 その声は僕の脳髄をしびれさせるような響きを持っていた。
 僕はすぐに唇の柔らかさだけでは満足できなくなって、舌で喜多の唇をこじ開けようとした。
 喜多の濡れた唇はなんの抵抗もなく僕を受け入れると、おそるおそる甘い舌で僕を迎えようとする。
 それを幸いと、僕は思う存分喜多の舌を吸い、しゃぶり、味わい、さらには喜多の口内を蹂躙しつくした。
「あぁ……桐野ぉ」
 おそらく無意識にだろう、僕の名前を呼んでいる。


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