「よし、わかった」
 そう言うと、喜多はわずかに後ずさりした。なにやら不穏な空気を感じ取ったのだろう。しかし、狭い部屋のベッドの上では逃げ場などない。
「ここで僕が奴隷のお願いもきちんと聞き入れ、完璧な解答を導き出す寛大なご主人様だということを証明しよう」
 僕がぐっと身を乗り出すと、それとは対照的に喜多は身をそらせた。彼女の背中が壁に当たる。
「一人ですればいいんだ」
「はぁ?」
 息を呑んで緊張していたぶん、脱力が激しかったのだろう。喜多は気の抜けるようなひょろひょろした声を漏らした。
「一人ですればいい。そうすれば僕の匂いが布団につくこともない」
「はあぁ? なにをだよ」
「エッチだ」
「はああああ?」
 喜多は僕の言うことが本当に理解できないらしい。宇宙人でもみるような目つきで僕をみている。
「だから、一人エッチ。つまりオナニー、マスターベーション、自慰」
 すさまじい勢いで喜多が身を引いた。ベッドの上で子猫みたいに縮こまっている。
「なっ、なに考えてんだっ!?」
「喜多さんのこと」
「てっ、ばっ、い、今そんなこと言うんじゃねぇっ!」
 わたわたと手近にあった枕を引っ掴むと、ばすばすとそれを殴った。なんとも言えない照れ隠しである。
「喜多さんがそこでオナニーしてるのを僕がここで見てれば、布団に僕の匂いなんかつかないだろ」
 僕は机の前にあった椅子を動かしベッドの脇にもってくると、そこへ腰を下ろした。
 喜多は心底呆然とした顔のまま微動だにしない。
「さ、早く」
「で、できるわけねぇだろっ!」
 喜多が投げつけてきた枕を受け止める
「喜多さん……僕はご主人様で、喜多さんは?」
「奴隷だよっ!」
「よくできました。奴隷の言うことを聞き入れて、こんなに親切な解決策を提案してくれるご主人様なんてめったにいないだろう。喜多さんはいいご主人様を持った」
 僕が自画自賛していると、喜多が今にも噛み付かんばかりに睨んでくる。
「そんな怖い顔してないで早くしてよ」
「……やり方がわかんねぇ」
「え?」
「したことないからやり方がわかんねぇっつったんだよ!」
 自棄になった喜多が大声でわめく。
 しかし、僕はなんら動じることなくにやにや笑ってみせる。
「あれ? 前に一人でしてみたけど、気持ちよくなかったって言って僕のところに来たのは誰だっけ」
 ひゅっ、と息を吸い込む音が聞こえたかと思うと、喜多が頬を染めて泣きそうに顔を歪めた。
「あっ、れはっ、そのっ、だから、あれから――」
 切れ切れになにか言おうとするのだが、まったく言葉になっていない。
 あまり苛めるのも可愛そうに思い、助けてやることにする。
 我ながら本当に奴隷思いの心優しいご主人様だ。
「わかった、わかったから。よし、それじゃあ僕が手伝ってあげよう。僕の言う通りにするんだ」
 もう、羞恥心で押しつぶされそうになっていた喜多は、僕の言ったことなど理解できなくなっていたのだろう。こくこくと慌てて首を振った。
「それじゃあ最初に服を脱がないとな」
 涙目になっているせいで、きらきらと輝いて見える綺麗な瞳で僕を睨みつける喜多。
「僕の言う通りにするって言っただろ。あ、上はまだいい。下だけ脱いで」
 ベッドの上に起き上がりかかけた喜多を制して、言葉を付け足す。
「この変態!」
「喜多さんが風邪を引かないようにという心遣いなのに」
「うっせぇ! いつかぜってぇボコボコにしてやる」
 憎まれ口を叩きながら、ジーンズに手をかける喜多をじっと見つめる。
 彼女は、見んな、だとか、絶対コロス、だとか言いながらも素直にジーンズを脱いでいく。最初に爽やかな青いショーツが見え、徐々にすらりとした足が露になっていく。頬ずりしたくなるぐらい触り心地のよさそうな美しく引き締まった太もも、すっきりと引き締まったふくらはぎ。最高だ。
 喜多は手にしたジーンズをベッドの隅に置くと、小さく深呼吸した。そして、意を決してショーツに触れる。
 そこへ僕が待ったをかける。
「あ、それもまだいい。こういうことは時間をかけないと」
 喜多が眉を寄せ、複雑な表情になる。安堵と、わずかばかりの期待が入り混じった顔だ。
「そ……そんでどうすんだよ」
 吐息混じりに喜多が言った。すでに覚悟を決めたらしい。こういうところは素直に尊敬できる。
「よし。そこの壁にもたれて座ったら、足を開いてくれ」
 僕の指示通りにベッドの上で壁にもたれて座る喜多だったが、なかなか足を開こうとはしない。
 抵抗するように三角座りで固く足を閉じている。なんとか股間を隠そうとしているつもりなのだろうが、細くしまった足首の隙間から、寄せられた肉のせいでぷっくらと膨らんでいる下着が見える。どこの部分かは言うまでもない。あのぷにぷにした青い布切れの下を想像するだけで興奮してしまう。
 じっくり見ていると、うっすらと、本当にうっすらとだが縦に走っているすじが見えるような気がする。
「そんなとこばっか見てんじゃねぇっ!」
 僕が学術的好奇心を満足させていると、たまりかねた喜多が僕を怒鳴りつけた。まったく、向学心を解さないやつだ。
「いや、これからいじってもらう場所だからちゃんと観察しとかないと」
「てめぇはっ――」
「それより、僕は足を開いてって言ったはずだけど」
「っ……わかってるよっ」
 言うが早いか、彼女はやけくそ気味に勢いよく足を開いた。もうすこし恥じらいというか、静々と開いて欲しかったが、この際文句は言うまい。
 常々思うのだが、彼女には女らしさというものが少々足りない。まあ、それがいいと思ってしまう僕はだいぶ毒されているのだろう。
 僕はふるふると震えながら開脚を維持している喜多に最初の命令を下した。
「それじゃあ最初は指でしてみよう。そうだな、掌をそこに持っていって……そう、そのあたり、もうちょっと右。自分でだいたいどこら辺に割れ目があるかわかるだろ、そこに中指」
「割れっ、割れ目とか言うなっ!」
「自分も言ってるじゃないか」
「ちがっ、これは」
「割れ目が嫌なら、おまん――」
「割れ目でいいっ!」
 喜多が涙声で絶叫する。
「お互いの意見が一致したところで、そのまま中指でそこをこすってみよう」
 喜多はまだなにか言いたそうにしていたが、僕の指示通りに指を動かしだした。なんだかんだ言っても、期待しているのだ。
 ほんのわずか触れているという程度に指を押し当てながら、ゆっくりと動かしている。


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