「さ、続き」
「……本を取って来てから、ベッドの上でそれを読み始めた」
 有無を言わさぬその口調に、諦めて話を続ける。相手の顔を見ながらでないだけ、少しはましだと諦めて。
「それから?」
「それから、パラパラと眺めているうちに、あの……フェラチオのページになって。なんだか変な気分になってきて」
「どんな気分?」
「あの、だから、この前のことを思い出しちゃって……」
「で、どうした?」
「……頭がボーっとしてきて……いろいろ想像しながら指を。……自分の指を舐めたんだ」
 とうとう言ってしまった。全身が熱くてたまらない。
「そのときはどんな気分だった?」
「わからない。なんだかぼんやりしてたから」
 普段なら口篭もってしまうような質問にも、なぜか答えてしまう。アイツの声が耳から入って私をおかしくさせる。
「よし、じゃあ……もう一回やってみよう。今度は俺の指で」
 荒く息をして、だらしなく開いていた私の唇に、後ろからまわされた指が触れた。そこから体中に私を溶かす熱が広がっていく。
「舐めて」
 命じられるままに、舌を伸ばし、指に触れた。体温が舌先から伝わってくる。自分の指を舐めたときとは全然違う。あのときより私は遥かに興奮している。
「それだけ? ちょっと舐めてみただけなんだ?」
 問い掛けられて、私は返事をしようと思ったけれど、私の口はすでに私のものではなかった。
 勝手に舌が動いてピチャピチャと音をたてる。私は自分をこんなエッチなことができる人間だとは思っていなかったけれど、私の口を犯している指がいけないのだ。
 こんなに甘く、切ない味は今まで感じたことがない。
 いや、一つだけあった。指ではなく……。
「お前って、普段は空手命って感じでこんなことしそうにないけど、スイッチ入ると凄えよな」
 アイツがごくりとつばを飲み込む音が聞こえる。いや、私が飲み込んだのだろうか?
「で、舐めただけなのか?」
 質問なのか、命令なのか。私はもう、どうでもよくなってしまった。舌が指を這いまわるたびに体の奥から熱くなってくる。
 先ほど想像したように、あの夜想像したように、私は指を咥えた。固い爪と、皮膚の舌触りの違いが交互に襲ってきて、私を酔わせる。爪の先が頬の内側を引っ掻いたと思ったら、指の腹で優しく撫でられる。
 口の中の空気を洩らし、くぷくぷ音を立てながら、頭を振り、指を唇で締め付ける。続けて、できるだけ深く咥えこむと、ちゅうちゅう吸いついた。
「んふー、ふぅー」
 私は指を片時も離そうとしないので、どうしても口で息ができない。そのせいで、ふーふーと情けない鼻息を洩らすはめになる。下品なことだとわかっているが、それでも口を離して息をするなんて考えられない。
 舐めているのか、舐めさせられているのか。最初は仕方なく始めたはずなのに。
 いつのまにかアイツの手首にまで私のよだれが流れ、垂れてしまっている。しかし、それにかまわず私は舌を動かし続けた。舌を指に絡ませて、できるだけ離隙間ができないように密着しながら、ずるずると舐めしゃぶる。
 愛撫しているのは私のほうなのに、その私が感じてしまっている。うっとりしていると舌を指で摘ままれてしまった。
「んんっ!」
「美冬さぁ、なんか俺の指舐めて気持ち良くなってないか?」
 なぁ。と言いながら、私の舌先をくにくにと揉んでくる。本来なら苦しいはずなのに、その苦痛さえも微かな快感と共にやってくる。
「んんん……んあんん」
 私は舌を引っ張られているので、口を閉じることもできずに、たらたらとよだれを零してしまう。
「ま、いいか。俺も気持ちいいからお互い様ってことで」
 舌を挟みこんだまま、指を口の中へ押しこんでくる。私は口腔で解放された舌を使って、つい今まで私を苛めていた舌を愛撫する。
「こんな風に咥えたんだ」
「ふぁい」
 指が邪魔をして、気の抜けた返事しかできない。そのことが私をさらに興奮させる。
 私は咥えこんだ指に舌を絡ませていく。
「一人でこんなことしてたんだ。なにを想像して?」
「……色々」
「色々ってなに?」
 優しい、期待に満ちた声がためらう私の背を押す。
「お前のを、想像して」
「俺の? 俺のなにを想像してたんだよ?」
「……お前のアレ」
 答えた私の口から指が引き抜かれてしまった。私はぬらぬらと濡れて光っているそれが欲しくて、はしたなく舌を突き出した。けれど、後少しというところで届かない。
「アレじゃわからないんだけど。名前、知ってるだろ?」
「……」
 わかっているくせに、私に言わせたいのだ。腹が立つ。けれど、もう私は逆らえない。きっと私がそれを言わないと、もう指を、私を蕩かしていく指を舐めることができないだろう。
 それは嫌だ。
「……お、おちんちん、だ」
 言ってしまった。けれど恥ずかしさよりも、与えられるであろうご褒美への期待のほうが大きい。
「そうなんだ。美冬ってエッチだよな。キスもしたことないのにフェラのこと想像してたんだ」
 あらためて指摘されて、忘れかけていた恥ずかしさが蘇る。
 羞恥で顔が熱くなった。それでも、私は唇を開き、舌を伸ばした。これではエッチと言われてもしょうがない。
 が、いつまでたっても私の舌に指が触れない。
 焦れた私が、情けないおねだりをする。
「なぁ、言ったんだから……指、指舐めさせて」
 自分で口にした言葉に煽られて、私はさらに淫らな気持ちになった。一度口にしてしまえばもう歯止めはきかない。
「お願いだから、私にお前の指を……」
 はしたないおねだりは想像以上の効果があった。
「そろそろ、指じゃなくて、また俺の舐めてくれよ。もうお前のお尻の下でたまんないんだ」
 腰を動かしてぐりぐりとお尻に押しつけてくる。
 そのとき初めて気付いたが、私のお尻の下に硬いものが当たっている。なんだろう、そう思った瞬間、私はそれがなにか気付いた。
「それとも指の方がいいのか?」
「……アレの方がいい」
「美冬はエッチを通り越して淫乱だよな」
「お前のせいだ変態」
 私の返事はにやにや笑いで返された。
「それじゃあ、まずは変態のひざからどかないとな」
 アイツは言いながら、私を持ち上げ床に降ろす。
 私はぺたりと床に座りこんだ。目の前にベルトが見える。
 そのまま、次を待ったがなにも起こらない。怪訝に思って見上げると、私が今まで乗っていたひざをじっと見ている。


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