「なんだ? また顔についた精液まで舐めるのか?」
「ふぁん。らってもったいない。せっかく出してくれたんだし」
 ぺろぺろ舌を動かして舐め取っていく。口の中はもうドロドロだ。
「んむっ、ふぅぅ」
 顔についた分を全部掬い、舐め取ると私は深く息を吐いた。
「しかし、今回は凄かったな。顔射された途端悲鳴を上げて……あれイッてたよな」
「顔射ってなんだよ?」
「……美冬ってほんとエロイのに、自分のしたことがなにかって全然知らないんだよな」
「エロイって言うなっ!」
 否定したものの、我ながらこれほど説得力のない発言は初めてだ。
「顔射っていうのは、今みたいに顔に精液をかけること」
「そうなんだ。……私はイッたのかな? なんだかわけがわからなくなって……気持ち良すぎておかしくなりそうだったけど」
「イクってことの意味は知ってるんだ」
「うるさいっ!」
 赤面しながらニヤニヤ私を見下ろしている恋人に怒鳴った。
「フェラしただけであんなに気持ち良さそうになるなんて、俺初めて見たぜ」 
「そうなんだ」
 呟いた私は、急に恥ずかしくなった。コイツにはみっともないところばかり見せている気がしたのだ。
 突然もじもじし始めた私を見て目を細めていたアイツが、私のあごに手を掛けて自分を見詰めさせた。
「な、なんだよ」
 珍しく真面目な顔をしているので、緊張してしまう。
「なぁ、美冬」
「……」
「キス、しようぜ」
「きゅ、急にそんなこと言われても」
 いきなりの提案に声が裏返ってしまう。
「嫌か?」
 わたわたとうろたえる私を気にせずに、真剣な表情だ。
「嫌じゃないけど、顔ベトベトだし。前もそれでしなかったし」
「ベトベトでも別にいいよ。俺はすぐにしたい」
 そこまで言われて私は覚悟を決めた。おちんちんを舐めておいて、こんな風になるのはおかしいのだろうか。もの凄く緊張する。
「……うん。わかった」
 耳まで赤くなっているのが自分でわかる。私は驚くほど小さな声しかだせなかった。
 手をぎゅっと握り締めて、ゆっくりと目を閉じた。
 少しだけ唇を開いて、じっと待つ。
 私の背中に手が回された。
 見えなくても、アイツの顔が近づいてくるのがわかる。
 がちゃん! ばん!
 鋭い音と共に、誰かが更衣室に入ってきた。
「先輩ー? いますかー? もうすぐ一回目の休憩になっちゃいますよー、先生怒ってますよー」
 お互いにびくりとして体が離れてしまう。
「せんぱーい!?」
 すっかり忘れていた!
 私は練習の準備として着替えるために更衣室にやって来ていたのだ。決して、いやらしいことをするためではない。
 幸い、この部屋はロッカーが並んで、区切られるようになっているので、入り口からは今いる場所は見えない。
 どうしよう、そんな目でアイツを見ると同じように焦ってうろたえていた。
「と、とりあえず、追い返せって」
 小声で私に指示を出してくる。
 確かに、この有様を見られてはいいわけのしようがない。
「ご、ごめん! ちょちょっと貧血起こしちゃって」
「大丈夫ですか!すぐ行きます」
 私のいいわけは思いっきり逆効果になってしまった。
「ばっ、ばか! 何てこと言うんだよ。追い返すんだろ!」
 アイツががくがくと私を揺さぶった。
「いい! 来なくていいから! 私大丈夫だから。先生に今日はもう帰るって伝えてくれればいいから!」
 必死で追い返そうと言葉の限りを尽くす。
 こちらの気迫が伝わったのか、納得した気配は無いものの、わかりました。という返事が帰ってくる。
 私達は顔を見合わせると、胸を撫で下ろした。
「じゃあ、伝えときます。ところで先輩?」
 安心したのも束の間だった。まだなにかあるのか?
「な、なに?」
 喉が引き攣って妙に甲高い声になってしまった。
「なんか変な匂いしません?」
 私は心臓の音が相手に聞こえるのでは無いかというほど驚いた。間違い無く、先ほどまで私を虜にしていた精液の匂いに違いない。多少は舐め取ったものの、胴着に染み込んでしまっている。
「さささぁ? べっ、別にそんな、匂いなんかしないと思うけど」
 私のうろたえぶりに、横にいる恋人が顔を真っ青にしている。
「そうですか? なんか匂うとおもうけど……。先輩? なんかおかしいですよ、やっぱり私そっちに行った方が……」
「だめだっ! 来るなっ!」
「わ、わかりました。それじゃ体、気をつけてください」
 焦った声の後、ドアが閉まる音が聞こえ、室内に二人きりになった。
「は、早くここから出ていかないと、もう休憩って言ってたから、人が来る!」
「おう。でもお前どうすんだよ。そんな格好じゃどうにもならないだろ?」
 そう言うと、私の格好を見下ろした。確かに精液まみれの胴着を着ている今の私では心配されるのは当たり前だ。
「大丈夫、シャワー室あるから。更衣室の奥にあるんだ。だから早く出ていかないと」
「わかった、じゃあな。フェラしてる美冬すげぇ可愛かったぜ」
 アイツは私を恥ずかしがらせる捨てゼリフを残して、やって来たときと同じように窓から出て行ってしまった。
 一人になった私は、制服を抱えて全速力ででシャワー室に飛びこんだ。
 私がドアを閉めるのと同時に、休憩になった部員達が更衣室に入ってきた。
「はぁー。危なかった」
 私は冷たいシャワーで体の火照りを冷ましていた。
 まだ、胸がどきどきしている。フェラチオをして感じてしまったこともあるが、それよりも、キスを迫られたせいだ。
 夢にまで見たファーストキス。
 せっかくファーストキスができそうだったのに。私は、どうして鍵を閉めなかったのか。あんなに真剣でかっこいいアイツなんて初めて見たのに。
 後悔しながらも、恋人の顔を思い出して頬が緩む。キスしていいか。なんて言わなくても私が断るわけないのに。そんなことを考えていると一人で有頂天になってしまう。
 そんな幸せを感じるからこそ、せめて、今回こそは。
「キスしたかったー!」
 私はシャワーに打たれながらやけくそ気味に叫んだ。
一方、彼氏は彼女のそんな思いを知らずに、フェラチオの感触を思い出して元気に勃起しながら家路についていた。


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