しばらく二人でその場に突っ立っていたが、黙っていると美冬が消えそうな声で話しかけてきた。
「あの……いつから目が覚めてた?」
「触るなんてできない、のあたり」
「そんな前から!?なんでもっと早く声かけてくれなかったんだよ!」
「かけようとしたらお前が顔近づけたりしたから、かけにくかったんだよ。匂いまで嗅ぎ出すしな」
 俺の言葉に美冬はさらに顔を朱に染めた。
 もう首筋までピンクに染まっている。
「そ、それは……」
 呟くと美冬は泣きそうな顔でうつむいてしまう。
 そして、そのままの格好で俺に尋ねる。
「じゃ、じゃあ……、最後の私がしようとしてたことも見てた?」
「舌出したのが見えた」
 あっさりした俺の返事を聞くと美冬はその場にへたり込んでしまった。
「……っ。うっ、うっ、うっ」
「なんだって?」
 おれが顔を覗きこむと、美冬はぽろぽろと大粒の涙を流して泣いていた。
 男勝りのこいつがこんなことでなくなんて。
 いつもは強気一辺倒の顔が泣き顔になるなんて。
 可愛らしい女の子を見ているみたいに心臓がどきどきする。
 俺は静かに泣いている美冬を見て呆然としていたが、なんとか慰めよう、と思い口を開いた。
「えっと……その。泣くなよ。俺、今あったこと誰にも言わないし、忘れるから。な?」
「……そんなの意味ない」
 俺の言葉はあまり効果がなかったようだ。
 美冬はぐずりながら俺を見上げた。
「なんで?本当に俺約束するぜ」
「だって……」
「なんだよ」
「だって……好きな人にあんなことしてるとこ見られたらもう……生きていけない」
「誰も見てねぇよ。俺達二人しか知らないから、な」
 俺は慰めの言葉を口にしながら美冬の肩に手をやった。
 ちょっと待てよ?
 今なにかひっかかるような?
「今……なんて言った?」
 今度は俺がぎこちなくなった。
「……好きな人に見られた」
 美冬が潤んだ瞳で俺を見上げる。
「まさか……好きな人って、俺か?」
 美冬はこくりと頷いた。
「えっ!?なんだ!?これ。だってお前そんな素振り全然見せなかったじゃねぇか」
 気が動転して、俺は自分でも何を言っているかわからない。
「お前がただの友達としか見てないってわかってたけど、一緒に入れるだけでいいやって思って。本当はお前の彼女になりたかったけど……私、小さい頃から空手しかやってこなかったから、なにすれば男が喜ぶとかわからなくて」
 喋っているうちに少しは落ち着いてきたのか、美冬は泣き笑いの顔になっている。
「最悪の告白だ。へへ……」
 美冬が涙の跡が残った顔で無理やり笑顔を作る。
「ごめん。なんか変なこと言っちゃって。もう相手してくれなくていいから。まぁ、あんなことしようとした女なんか相手にする気にならないか」
 ゆっくりと立ちあがると美冬は、ばいばい、と哀しそうに呟いて、立ち去ろうとした。
「ちょっと待てよ」
 俺は自分の言葉に自分で驚いた。
 なにも喋る気はなかったのに勝手に口が動いたのだから。
 美冬がぴたりと動きを止める。
「俺の返事も聞いていけよ。俺……お前の、美冬のこと好きだ」
 驚いた顔をして美冬が振りかえった。
「告白して、振られて仲のいい友達でいられなくなったらどうしようかって思ってさ。まさか美冬が俺のこと好きとは思わねぇからな」
「ほんとに?」
 信じられないと言った表情で美冬が問いかけてくる。
「本当だ」
 美冬が飛びついてくる。
 俺はしっかりと美冬を抱きとめると耳元でささやいた。
「美冬、好きだ」
「あのさ、お願いがあるんだけど」
 美冬が俺の体に顔を埋めながら言った。
「なんだよ?」
 俺は今ならどんな願いでも聞き入れてやれる気がした。
「その、付き合えることになったら……キスして欲かったんだ」
「キス?」
「ファーストキス、もらって欲しい」
 聞き返した俺に美冬が頬を染めながら言う。
 なんて可愛らしいお願いだろう。
 俺は感激した。
 しかしその直後、俺はそのファーストキスと言う言葉に驚いた。
「お前……キスしたこともないのに俺のを舐めようとしたのか?」
「ち、違う!いや、その、違わないけど。あれは気の迷いと言うか、なんと言うか」
 さっきの自分の行動を思い出したのかオロオロと落ち着きをなくす美冬。
「よし、わかった。そのお願い叶えてやるよ」
「ほんと!?」
 俺の言葉に満面の笑みを浮かべると、美冬は目を閉じた。
 だが、俺はキスをしようとせず、美冬の顔を眺めている。


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