あの、結果オーライの恥ずかしい最悪の告白の後、アイツと一緒に家に帰った。家の前までずっと手をつないで、恥ずかしくて、嬉しくてほとんどなにも喋れなかった。
 家に入るとき手を離すのが名残惜しかったけど仕方ない。明日になったらまた会える。そう諦めて別れた。
 その夜、私は弟の部屋からエッチな本をこっそり持ってきた。隠し場所は前から知っていたから簡単だった。
 アイツの言葉を聞いていて、どうやら私にはそういう方面の知識が全然ないということに気付いて、少し勉強しようと思ったのだ。……その、いつ、そういうことになるかわからないから。
 そして今、私はベッドの上で取ってきた本とにらめっこしている。勉強しようと思ったのはいいが、恥ずかしくて見る勇気が出ないのだ。
 私は表紙を見ただけで赤面してしまいその本を読むことができない。だって、おっぱいを出した女の人が大きく足を開いている。
「……このままじゃだめだっ! 勇気を出せ美冬!!」
 勢いに任せて本を手に取り、表紙をめくっていく。
「うわぁ……。凄い……こんなことするんだ……」
 知識としては知っていたが、写真でもろに目の前にあると違う。私は初めて見た他人の行為にショックを受け、声を洩らしていた。
 それと同時に体の奥が熱くなるのを感じた。空手をやっているときの熱さとは違う熱さだ。
 ぺらぺらとページを捲っていくうちに、ある写真が目に飛び込んでくる。
「……フェラ……チオしてるとこだ」
 写真の女の人みたいに自分がアレを舐めていたなんて、信じられなかった。こんなにいやらしく見えることをしてたなんて!
 どきどきしながらその写真を眺めていた私は、いつのまにか指を口元に持ってきていた。
 気がついて、慌てて自分に言い聞かせる。
「うわっ! ちょっ、と。私なにしようとしてんだ」
 指が勝手に迫ってくる。自分の体なのにいうことを聞かない。あの草むらでのことが思い出されて、頭がボーっとしている。
 ぺろり。人差し指を一舐めしてしまったのがきっかけだった。そのまま咥えて舌を動かす。私は指がベトベトになるのもお構いなしに、しゃぶり続けた。
「んむぅ。……あむ」
 頭がじんじんして、なにも考えられない。
 しばらくして私は我に返って、情けなさで一杯になった。いくら興奮したからと言って自分の指をうっとり舐めるはめになるとは思わなかった。
 自分がそれほど自制の効かない人間だと言うことをはじめて知った。空手で身も心も鍛えられていると思っていたのに。
 結局その夜は、引出しの中に本をしまい、いつのまにか濡れていた下着を替えると、むりやりふとんに潜り込んだ。

 数日後、私は道場の更衣室前でドアノブを握ったまま固まっていた。
「最近なんか美冬先輩おかしくない?」
「やっぱりあんたもそう思う?」
「じゃあ、早苗もそう思ってたんだー」
「だってなんか練習中もボーっとしてるしさぁ。この前の組手のときなんか、いきなり嬉しそうに思い出し笑いしてんのよ。私びっくりしちゃってなにもできなかったって」
「え! マジで。あの美冬先輩がそんな風なのって見たことないよね」
「それに朝練終わりにみんなでバナナ食べんじゃない?」
「ああ。監督の授業前に朝練で使った分の栄養補給をするんだー。とか言ってるやつ?私らがバナナ食ってんの見たいだけなんじゃないのって思うんだけど。あのエロオヤジ」
「そう、それそれ。そんときさ、美冬先輩すごいエッチなんだって」
「なにが?」
「バナナの食べ方」
「えー!? 本当にマジで!?」
「なんかさ、すごいエロイ顔して、舐めるみたいに食べてんの。あれ絶対に口の中で舌動かしてるって。つーかフェラのこと想像してるよ。絶対そうだって」
「なに言ってんのよ早苗!美冬先輩はそんなことしません!!」
「ちょっ、叩かないでよ。もう、あんたの美冬先輩好きはわかったから。ちょっとあんたレズっけあるんじゃない?」
「失礼なこと言わないでよ。私は純粋に尊敬してるんです!」
「ほんとにぃー? でもさぁ、絶対に先輩男ができたよね」
「美冬先輩は男なんかに興味ありません!」
「うわっ! あんたやっぱレズなんじゃん!!」
 私はドアの向こう、更衣室から漏れ聞こえてくる後輩達のかしましい会話を聞いていのだ。
 盗み聞きをする気は全然なかったけど、後輩の会話に自分の名前が聞こえてきたら、どんな話をしているか、気になるのは仕方ないと思う。
 ついつい聞いてしまったことには悪いと思うが、聞いてよかった。心の底からそう思った。
 練習に臨む前の気合が消え失せて、変わりに妙な汗が浮かんでくる。そして、顔がものすごい勢いで赤くなっていくのが自分でもわかった。
 自分がそんなことをしていたなんて、全然気付かなかった。しかも後輩に見られていたなんて。
 確かに初めてアレを舐めてから、エッチな本を見てからというもの、なんだか棒状の口に入れるものがアレに見えて仕方ない。ぼんやりしているとつい、あのときのことが思い浮かんでしまう。
 監督にも最近、注意力散漫だ。と怒られた。
 あのバカのせいだ。いきなりあんなエッチなことさせるから、私はおかしくなってしまった。
 あのうっとりする独特の匂いと、口に咥えたときの熱さのことを思うと、体が蕩けそうになる。
 ガンッ。
 口を半開きにして立っていた私は、いきなりおでこに衝撃を感じた。
「痛っ」
「あっ、美冬先輩! すいません、ドアの向こうにいるなんて気付かなくて。大丈夫ですか?」
 後輩がドアの影から顔を出して謝っているのが見える。どうやら、ぼけっと立っていた私にドアが当たったらしい。
「謝らなくてもいいから、私がぼんやりしてたのが悪いんだし」
 少し赤くなっているおでこをさすりながら私は言う。
「ほんとすいませんでした」
 後輩達はぺこぺこ頭を下げながら道場の方に小走りで駆けて行った。
 あんたが悪いのよ。なんでよ。二人が責任を押し付けあっている声が聞こえてくる。
 しっかりしなきゃ。反省しながら開いたままのドアから、更衣室に入る。
 私は自分のロッカーの前に立つといつものように制服から胴着に着替えだした。もう何回も繰り返した、体に染み付いた動きだから勝手に体が動く。そのせいで余計な考えが頭に浮かんでくる。
 あれから今日まで、学校で喋ったり、一緒に下校したりするものの、アイツは手を握るぐらいでなにもしてこない。
 ロマンチックなファーストキスと、それから……。
 そんな期待を抱いていた私は肩透かしを食ってしまい、やっぱりこんな空手ばっかりやっている女なんかに、魅力を感じなくなってしまったのだろうか。と不安になっていた。
 そして今日の昼休み。たった数日でおかしくなりそうだった私にアイツは言った。
「今日の放課後、道場で待っていてくれ」
 私は訳がわからなかったが、うん、わかった。と返事をした。
 すると、アイツは嬉しそうに笑いながら食堂に行ってしまった。後姿を見送りながら、今度アイツにお弁当作ってあげたいな。そう思う私を残して。
 そのことを思い出して、どんなお弁当にしようか考えていると気分が明るく、楽しくなった。いきなり持って行って脅かしてやろう。そう思うと、なんだかわくわくしてきた。


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