「ん……」
 静かに、唇が触れ合った。美春が山中を強く抱きしめる。山中もそれに応えるように美春を抱く腕に力を込めた。
 この上なく柔らかく、甘い美春の唇を感じながら山中はそれだけで、今まで生きてきたことに感謝した。
「……ん、あ」
 僅かな隙間から美春の口内に舌が侵入して、甘い吐息を吐かせる。
 最初は遠慮がちに、次第に情熱的に。山中が美春の口を蹂躙する。
 されるがままになっていた美冬も、ぎこちなく自分の舌を一度だけ絡ませた。
 ゆっくり唇を離し、互いを見詰め合う。
「キス……しちゃったわね」
「しちゃいましたね。部長の唇おいしかったです」
 アルコールで軽く染まっていた美春の頬にさらに朱が重ねられる。
 美春の年の割にすれていない、可愛らしい姿を見て山中が再び顔を近づける。
 今度は先程よりも深く、甘いキスを。
「あ、また……? んっ」
 山中はなにか言いかけた美春の口を自分の唇でふさぐ。唇を吸い、舌を吸う。二人の口の中で舌が絡まり、唾液が混ざる。
 遠慮してなのか、合わせるようなキスしかしない美春が、年下の自分を大人の余裕であしらっているように感じられて山中には面白くない。
 舌同士を絡ませるだけでなく、歯を、歯茎を、唇の裏を、頬の裏を、口の中すべてを愛撫する。
「ふぅん……んぅ、んぁ」
 新しい部分に山中の舌が触れるたびに聞こえる桃色の声が、まるで山中を挑発しているようだ。
 くちゅくちゅと淫靡な水音が、うねうねと求め合って動いてる唇の隙間から零れ落ちる。
 自分から唇が離れていくのを感じた美春はそれを惹き止めようと、開いたままの唇の隙間から見えるように突き出した舌をちろちろと動かし、誘惑する。
「はぁん」
 囁くようなその声を聞いて、山中も舌を伸ばす。しかし、美春の口内には侵入せずに、艶々と光っている唇を舌でなぞる。
 ゆっくりと、焦らすように唇を舐められて美春は、堪えきれずに切ない声を洩らした。
「……もっと……」
 自分があげさせた声に満足した山中は、美春の要求に応える。ちろちろと舌を動かし上司の唇を刺激した。
 繊細な刺激に我慢しきれず、美春は愛しい部下に吸って欲しいと、自ら舌を突き出す。
 山中は濃いピンク色に濡れ光っている舌を口に含むとちゅうちゅうと吸いついた。そのまま舌を辿るようにして、幾度目かのくちづけをする。
 部下の激しい舌使いに影響されたのか、女上司もぎこちなさは残るものの、それゆえ情熱的に舌を使い始めた。
「んむ、山中……ぁあ」
 激しいディープキスのせいで唇の周りが互いのよだれだらけになり、綺麗に塗った口紅も台無しになってしまったがまるで気にならない。
 美春は口の中に送られてくる愛しい男の唾液を、こくりとのどを鳴らし嚥下した。それは蕩けるように甘く感じられた。
 舌が絡み合うたびに美春の頭にピンク色の霧がかかり、相手の舌を求めること以外考えられなくなっていった。
 顔を動かし、攻守を入れ替え、何度も何度もキスをする。
「っつ、はぁん」
 ちゅぽん、という音が聞こえ、情熱的なキスが終わった。離れる舌から、つぅ。と糸が引かれる。
 美春が舌を動かしその透明の糸を絡め取る。そうして、その舌でゆっくりと自分の唇を舐めた。
 まぶたが半分ほど閉じて、うっとりとした目をしている。おそらく自分がなにをしているか、良くわかっていないのだろう。
 あまりに淫らなその仕草は山中の欲望をさらに燃え上がらせた。軽くキスをすると唇から首筋にゆっくりと舌をずらしていく。
 あごから首筋へ、ぬるぬると妖しく光る筋を残しながら舌が動く。
 首筋に到達した山中は小刻みに舌を動かし、美春の白い首筋に快感を与える。
「ひぁ……! 舌が、んんっ」
 感じる部分を愛撫され美春が小さく悲鳴をあげた。
 それに気を良くして山中は吸血鬼のように首筋に吸いついた。しばらくの間、そうしていたが突然柔らかい皮膚に歯を立てた。当然、血など出ないように軽く。
「ひっ……」
 敏感に反応する美春。長いキスで霧がかかったようになっていた意識が少し覚醒する。
 首筋に噛みついている力がじわじわと強まっていくが、美春にはそれに抵抗しようという気がおこらない。
 必死で山中にしがみつくことしかできないでいた。
 ようやく首筋が解放されると、白かったそこには朱色のキスマークと歯型がくっきりと残されていた。
 己の痕跡に満足したのか、山中は首筋から耳元へ顔を移した。
 今度はすぐに口を近づけずに、軽く息を吹きかける。
「んっ! はぁ……あ」
 よほど敏感なのか、美春はそれだけで声をあげ、脱力したような声を出す。
 耳たぶを甘噛みされて、複雑な耳のラインに舌が這わされる。すると美春のひざから一瞬力が抜け、かくり。と崩れ落ちそうになる。
 山中が慌てて腰に回した手に力を込め、美春の体を支えた。
 お返しとばかりに、山中に縋り付きながら美春も山中の耳朶を唇で挟み込む。
 さすがに山中は崩れ落ちはしないものの、上司の息遣いを間近で感じ、愛しさがこみ上げてくる。
 もう一度、耳朶を優しく刺激すると、山中は言った。
「もう、我慢できません。します」
 この状況で、この後することといったら一つしかない。美春は部下の意思表示に慌てふためいた。
「だ、だめよ。ここがどこかわかってるの!? こんなところで……」
 腕の中から逃れようともがき暴れる。が、しっかりと捕まえられてどうにもならない。
「あなたが誘惑したんです」
「そっ……そんな! 止めなさい、誰が来るかもわからないのに」
「こんな時間に誰もきませんよ。それに、誰かきたら見せ付けてやります。僕の恋人を」
「山中!」
「こんなときまで部下扱いはよしてください。それにあれだけのことをしておいて……今更その気が無いとは言わせませんよ」
 自分が洩らした、淫らな吐息を思い出したのか、美春の動きが今までよりも大人しくなる。
 山中はその隙を突いて美春を抱え上げると、デスクに腰掛けさせた。そのまま書類やファイルが散らかるのも気にせず押し倒す。


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