「――というようなことがありまして」
「じゃ、じゃあ柿崎さんにはばれたの!?」
「はい」
 いささかうなだれた様子の山中に、美春がため息をついた。
「まさかあなたがそんなミスをするなんてね」
「あまりにびっくりしたもので」
「……まあ、そのことはいいわ。でもどうしてそれならそうともっと早く言わなかったの」
「聞いてくれなかったのはそっちでしょう。それにもう少しきちんと話したかったんですよ、柿崎さんのこともありますし」
 確かにその通りなので美春は返す言葉もない。
 黙ったままの彼女の顔を山中がにやにやと覗き込む。
 その顔が妙に憎たらしく、美春がふてくされた声をだした。
「なにがおかしいのよ」
「なにも」
 言いながら言葉とは裏腹に、山中の頬は緩みっぱなしである。
 美春はまるで自分の気持ちを全部見透かされているようで腹立たしい。
 事実、すべて自分の勘違い、というよりも情けない嫉妬やコンプレックスが原因でぎくしゃくしていた、させていたのが解決したのだから嬉しい。
 もう少し若ければそのまま山中に飛びついて感激の意を表しただろうし、さらに若ければ飛び跳ねていたかもしれない。
 と、そこまで考えて、いくら若くとも自分がそんなことをするはずがないと思い直す。もし、そのような可愛げがもっとあれば、今回のようなことにはならなかっただろう。そう思うと、また腹がたつ。
 なにより、自分のほうが十歳も年上なのだ。こんな年下の男に余裕綽々で相手をされているのが情けなく、そして嬉しい。
 最初になにが原因でこんなことになったのかを忘れたわけでもないのに、美春は自分たちの年齢差について思いをめぐらせた。
 美春は静かに息を吐き出すと、おもむろに山中のネクタイを掴み、引っ張る。
 ふいのことに、わずかに声を漏らす中山だったが、すぐに目を閉じる。
「……ん」
 名残を惜しむ間もなく、美春の唇が山中の唇から離れてしまう。
「もうちょっと長くてもいいと思いますけど」
「いまのはごめんなさいのキスだもの」
 照れくさそうにしながら、美春はネクタイから手を離した。
「でも、本当に私でいいの?」
 申し訳なさそうに伏せられたまつげが下がり、その長さが余計に強調されて艶っぽさを増した美春がささやく。
「いまさらなにを言ってるんです」
「たぶん……これからもこんなことあるわよ」
「それも込みで美春さんを好きだからいいですよ」
 さらりと言われて美春の頬が染まり、それを隠そうとして彼女の口から減らず口が飛び出す。
「込みってどういうことよ」
「こういうことです」
 言うが早いか、先ほどのお返しとばかりに、山中が美春にくちづけた。
 美春は山中の手を取り、指を絡ませた。
「……卑怯よ。答えになってないわ」
「そうですか?」
「そうよ」
「とりあえず中に入りませんか。もうちょっと長いキスもしたいですし」
 冗談めかして山中が言う。
 美春は呆れた振りをしてため息をつくと、握ったままだった鍵を持ち直し、鍵穴に差し込もうとした。
 すると、美春の手を覆うようにして山中の手がかぶせられた。
 首を回すと、背後で山中がにっこりと笑った。
 さっきはあれほど入らなかった鍵が、今度は一回でするりと鍵穴に吸い込まれた。
 玄関に入ると、山中は素早くドアの鍵を閉めた。
 目の前にいる美春は背後の様子に気づいた様子もなく、玄関わきの靴箱の上に鞄を置いてハイヒールを脱ごうとしている。
 綺麗な丸いお尻を包んでいるタイトスカートからは、黒いストッキングに覆われている魅力的な足がすらりと伸びている。
  その動きを無視して、山中は美春を背後から抱き起こした。
「ちょっ、と」
 美春が軽く声をあげたが、山中は聞き入れない。
 そのまま無理やり彼女の上半身をねじり、自分のほうを向かせると、強引にキスをする。
「ん……んっ」
 苦しい姿勢もあってか、眉を寄せながら美春がかすかな声を漏らす。
 それにかまわず、山中は美春の柔らかい唇に舌を割り込ませ、口内に侵入させた。
 いまだ戸惑っている美春の舌を強引に己の舌で絡み取ると、思う存分味わう。
 うっとりとした声を出しそうになって、美春はなんとか自制する。
 そして、両手で押しのけるように唇を離すと、しっかりと抱きしめられた腕の中で体を動かし、恋人と向き合う。
「……んむっ、ぅあ、こんなところでいきなりなにをする……の」
 抗議しようと思っていたのだが、眼鏡のレンズ越しにも関わらず、久しぶりに間近で見る恋人の目に射すくめられてしまう。見る見るうちに声が尻すぼみになって、視線も下がりうつむいてしまう。最後には山中の胸元のあたりで視線をさまよわせる始末である。
「さっきのキスだけじゃ謝罪が足りないと思って追加請求したんです」
「だったらそんな無理やりじゃなくても……」
「なくてもなんです」
 答えがわかっている質問をしてくる山中に、憮然とした表情で応えると美春は頭を軽く振った。
「……わかったから、靴ぐらい脱がせてくれないかしら」
「それはダメです」
「なぜかしら」
「僕が待てないからです」
 言うが早いか、山中は美春を抱きしめたまま、彼女の足の間に自分の足を滑り込ませる。
 美春がまさかと思う間もなく、山中は今日三度目のくちづけをした。今度はたっぷりと時間をかける。
 互いの唾液で濡れた舌が美春の口内で絡み合う。二つの舌のたてる淫らな音が、体の内側から響いてくる。
 場所を変えたいと思う心とは裏腹に、美春の体は勝手にまぶたをおろし、扇情的な声を漏らし、山中の背中に手を回している。
 山中の舌が彼女の唇を優しく這い、舌先に触れるたびに、美春の理性はゆっくりと蕩けていき、かわりにもっと蹂躙して欲しいとばかりに自分から恋人の舌を求めた。
 そんな彼女の姿に気を良くしたのか、山中は太ももを強く美春の股間に押し付けぐりぐりと刺激する。
 タイトスカートがまくれ上がり、ストッキングに包まれたむちむちの太ももと、それを妖艶に飾る黒いガーターベルトが見えた。
 布越しの、それもかなり荒っぽい愛撫だったが、美春の熟れた体はしっかりと快感を受け止めていく。

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