儀式を終えた二人はお堂の裏にある川で体を洗った。特に真由は全身どろどろだった。
 京一は嫌がったのだが、真由が京一の体を丁寧に清めた。これも儀式の一部だと強制的に洗われたのである。
 川に入る際、今更だが巫女装束を脱ぎ、京一に裸身をさらすのを恥ずかしがった真由の姿に、京一が興奮して、追加の神事が行われることになったのは二人だけの秘密である。
「――ん、よし。これでええ」
 月明かりに照らされた京一の体を点検し終えると、真由が軽く京一の背中を叩いた。
「ああ、ありが――」
 京一が言葉を途切らせた。ふと顔をあげて空を見上げたせいである。
 空には満天の星空と見事な満月。
 京一は今更ながらこちらに来てから、ゆっくりと夜空を眺めたことがなかったことに気づいた。夜は家で宴会ばかりだったので、この光景に気づかなかったのだ。
「凄いな……」
 呆然と呟くと、京一は黙り込んでしまった。
 感動のあまり、口をぽかんとあけてただ、空を見上げている京一を、真由が不思議そうに見る。
 彼女にとっては生まれたときからずっと見ている当たり前の景色だから今更驚くにはあたいしない。
 それでも、京一の感動は伝わってくる。
 そっと京一の手を取ると、同じように夜空を見上げる。
 草むらから虫の鳴く声が静かに聞こえる。遠くから聞こえてくる祭りの喧騒。
 村に帰ったらまず叔父を一発ぶん殴ってやるぐらいのことはしようと考えていた京一だが、それがどうでもよくなってしまった。
「まあ……いい目も見たしな」
 京一は傍らに居た真由に目をやった。
 そして思い出す。
「そうだ。いまならいいんだよな」
「ん?」
 真由が首をかしげる。
「あの、神社かなんかのところで言っただろ。祭りが終わったらって。だから……」
 繋いだ指先に力が込められた。
 二人が視線を交わす。
 指先からお互いの緊張を感じる。
 ふっ、と京一の体から力が抜けた。
「俺はもう一回言ったんだから、今度は真由の番だな」
「あっ、あたすのっ!?」
 真由が肩をすくめ、素っ頓狂な声をあげる。
「そう。早く」
「あっ、そっ、そそそそれは――」
 おたおたと真由が辺りを見まわすが、当然助けなどいない。
「早く」
「あっ、あたすは」
「早く」
「だから、あた、あたすは」
「早く」
「そんなにせかさんでっ!」
 たまりかねた真由が足で川の水を跳ね上げた。
「そっ、そんなに言われたらなんも考えられんようになってしまう! あたすどしたらええかなんてなんもわからんもん。お、男の人好きになったん初めてだ。なんちゅうて伝えたらええかもわからんで……」
「だからこんなことになったわけだ」
 京一が、とても一言では説明できない状況を経て、全裸で水浴びをしている自分達の姿をからかった。
 にやりと笑みを浮かべ、京一は真由の顎に手をやった。彼女の顔をわずかに持ち上げる。
 胸の辺りで両手を握り、祈るような姿勢で、真由が緊張した面持ちで京一を見つめている。
 京一がそのまま顔を近づけてきても、身を固くするだけで微動だにしない。
 すっ、と京一が顔を離した。
「あの……なんつうか目をつむってくれないとこっちとしては結構やりにくいんだけど」
「すっ、すまね。初めてだもんでなんもわからんくて」
「フェラは初めてのくせにすげえ上手だったけどな」
 途端に真由が声を張り上げる。
「あれは練習したから――」
「じゃあこっちは練習してないわけだ」
「……んだ」
 しおらしく頷いた真由の顔に、京一は再び顔を近づける。
 今度の真由はしっかりと目を閉じた。固く閉じすぎて、あまり優美とは言えなかったが、その初々しさが可愛らしい。
 二人の唇が重なり合う。
 その後、さらに追加の追加の神事があったのは二人だけのさらなる秘密である。


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